幸せを振り撒く猫
仕事に従事していると疲れる。
なんというか体力が気力がというより、自分がすり減るという表現が正しい。
自分がボコッとなくなった様な、ドロドロに溶けて形を保てない様な、そんな気すらする。
日々の中で癒しやご褒美を欲しくなるのも、働いてからわかる様になった。
そんな私だが、彼が来てからは仕事ですり減った自分を回復させる力が強くなった気がする。
帰宅時のお出迎えがあればそれだけで私は私の形に戻る事が出来る。
ゴロゴロと寝転がる、彼の形のいい頭を撫でると力がチャージされる。
回復力が高まるのは私だけ?かと思ってはいたが、猫に触れると幸せホルモンであるオキシトシンが増えるのは科学的に証明されている。
愛情を感じると分泌されるオキシトシン。
彼を撫でたり、ご飯を食べる姿を見たり、そんな時に分泌されるオキシトシン。
お水を飲んだ後、お口の下の雫を見ると分泌されるオキシトシン。
私は彼を守って生活をしているつもりだが、一番大きな所では守られている。
持ちつ持たれつ。
彼からの愛と幸せを分けてもらいながら、休日の夜がふけていく。
二人、寄り添って
最近はありがたい事に仕事が忙しく、バタバタした日々を送っている。
どうしても帰宅がいつもよりも遅くなるので、彼にも寂しい思いをさせてしまっている気がする毎日だ。
最近はご飯とお夕寝の後に二回。
くっつきタイムを所望されている。
リビングに私を呼びに来て、二人で二階の彼の部屋へ
そして、ドリルの様に体を擦り付け、ピタッと体をくっつけて座り込む。
彼を撫でてつつ、時間を過ごしていると満足したのか彼はスルリと離れていく。
私も深追いせず、またリビングへ
これでお役御免なのである。
リビングのソファに腰を下ろして、好きな動画を見る。
時間が過ぎれば、また彼が呼びに来る。
その毎日の繰り返し。
忙しい日々の中だからこそ、彼が呼びに来てくれた時は応えたいと思う。
朝の猫 夜の猫
彼の朝はいつも早い。
私が仕事の時は7時に起きるより早く起きて、ベッド上をうろうろしている。
私が休みの時はたまに私の方が早く起きるが、私が起きれば彼はあくび一つして起き上がる。
そして朝ごはんを食べた後は自分の部屋に戻り、日向ぼっこや窓際から街を眺めて一日を過ごす。
ベタベタせず、お互いの時間を過ごしている時の彼のお気に入りの場所。
窓際で陽を浴びる姿は絵になる。
きっとどのお家の猫さん達も絵画の様におさまっているんだろう。
暖かい陽が沈み、部屋が肌寒くなると彼は仕切りに一緒にいようと私を誘ってくる。
いつも一緒に座るソファに腰を下ろすと太ももに頭を擦り付けて、彼はゴロンと倒れ込む。
そして、ゴロゴロと甘えた仕草を見せてピッタリと寄りそう。
朝の猫と夜の猫。
ギャップ萌えを噛み締めながら、彼の小さなおでこを撫でて今日も幸せを感じているのだ。
小さな誘惑
猫が寝ているだけの動画を見る人も多いだろう。
目を細めて、あるいは腹を差し出して寝ている姿は人を魅了する。
例外ではなく、彼が寝ている姿も愛らしい。
ドテッとクッションに身を任せて、手を放り出している姿はたまらないものだ。
無防備な姿は可愛くて可愛くて、ついつい触りたくなってしまう。
今も文章を書いている横で、ベッドの淵のふわふわに顔を埋めている姿は私を誘惑している。
誘惑に負け、幸福の為に小さなおでこに手を伸ばす。
サリッと額に触れた時、彼は身を震わせて目を開けた。
明らかに寝ぼけた目に見つめられた私は罪悪感にかられた。
自分よがりな幸福の為に彼を起こしてしまった。
私が反省をしているとジトっとした視線が…
「ごめんね」
素直に謝ると彼はフンッと鼻を鳴らして大きなあくびを一つ。
そして、また眠りの国へ旅立っていった。
その姿は愛らしく、今もまた私を誘惑し続けている
スーパー猫の日
2022年2月22日はスーパー猫の日だった。
テレビやニュース、YouTube、腎臓病に対しての対策を研究している先生が話す真面目な番組から、猫バラエティまで何から何までが猫を推していた。
かわいい猫の映像が並び、眼福な日となった。
私もサンシャイン池崎さんの生放送に寄付スパチャをして、猫界の幸せを願う日になった。
でも、そんな日も彼は通常営業。
いつも通り、朝ごはんをねだって、仕事に行く私を興味なさそうに見送って、帰宅すれば頭突きをした。
猫の日でもなんの日でも猫は変わらずの毎日をおくっている。
はしゃいでいるのは人間ばかりだ。
でも、彼らの可愛さや気まぐれさを愛してはしゃぎたいのだ。
そして、一匹でも多くの猫を幸せにしたいのだ。
私もこんな日は二匹目…なんてことを考える。
考え…頭をひねる…
答えが出ないまま、お祭りにのっかって晩御飯を豪華にした私に彼は満足そうに喉を鳴らすのだ。
冬の休日
今日は休日。
最近は朝早く起きて、早朝の寒さを実感する事にしている。
まだ空が白む前に起きて、暗さと明けかけた空を見ると贅沢な気持ちになる。
股の間で丸まっている彼を起こさない様にゆっくり布団を抜け出して、部屋を暖めるためにストーブのボタンを押す。
まだ点火もされず寒い部屋の中で待っていると、うにゃうにゃとご飯をねだりながら彼が起きてくる。
「ご飯はまだですよ」
と伝えてもうにゃうにゃと抗議の声を上げる彼。
そんな時に点火されるストーブの火の音が、ボゥと部屋に響く。
普段なら体をビクッとさせる彼も抗議中
ひるまない。
真摯な瞳に負けて、ダイエット用のご飯を用意する。
朝ごはんに夢中になっているそばで、お水の準備。
温かい水を用意して、あとはそれぞれの時間。
ソファでダラダラしている私を横目に彼は二階へ
少し時間が経つと彼の顔を見に私も二階へ
いつもの出窓から町の監視をしている柔らかい彼の背中をソッと撫でる。
凛々しい横顔と、朝の街並みを見下ろしながら一息つく。
登校していく小学生を見守る瞳は優しい緑色をしていた。
一緒に暮らして一年が過ぎた
書いている私は36歳のいわゆるアラフォーの女だ。
仕事はサービス業で日々を過ごしている。
結婚していて、単身赴任の旦那が一人。
子供はいろいろな理由で出来なかった。
中古の一軒家を二年前に購入して、なんとなくの一人暮らしを満喫していた私は昨年から同居猫を迎えて二人暮らしをスタートさせた。
同居している彼はたぶん6歳になる元保護猫の雑種、キジトラくん。
どこにでもいる一番オーソドックスな猫らしい猫。
体は長く、体重は重い、存在感のある出立をしている。
我が家ではてっちゃんと名付けた。
家に来る前の旧姓は放出。
彼は愛護センターで貰い手がなく、私の街の保護猫コミュニティにやってきた。
だから年齢も過去も何もわからない。
たぶん、こうだろうと言われた事しかわからない。
ミステリアスな男なのだ。
そんな彼と暮らして、一年が過ぎた。
36歳の女と約6歳の猫。
くだらないながらも日々を過ごし、彼といる毎日は幸せの連続だ。
しかし、彼は猫。
生き物として寿命を考えた時、きっと私より先に死んでしまうのだろう。
彼と残された日々は彼が平均より生きてくれても、あと何十回と記念日を重ねられるわけではないのだ。
だから、気が早いけども彼と過ごす日々を文字に残す事にした。
たくさんの猫を飼った方の体験に触れた時に、後悔したくないと思ったのだ。
だから、早く、出来るだけ早く準備をする事にした。
彼の可愛さ、優しさ、頭の良さ。
文章にして、形にして、焼き付けていこうと思う。
私が先に死んでしまう事もあるから、どちらにせよ後悔にならなくてもよい。
とにかく、始める事だ。
今も目の前でご飯を催促して鳴いている姿は、すっかり我が家に馴染んでいる。
そんな何気ない姿も愛しく、凛々しいのだ。
今も不満げにピザの広告の紙を噛みちぎってしまった。
私は携帯をテーブルに置いて、ご飯まで彼の気を紛らわせにいくのだ。